人格障害(パーソナリティ障害)と診断された方(あるいは疑いのある方)は、そのほとんどが自分と同じ感覚や境遇の人間に出会ったことがありません。

そのせいで周囲から共感が得られにくいどころか、気持ちをなかなか理解してもらえない経験を多くされてきているためか、軽い人間不信に陥っている場合も少なくありません。

今回は、そんな彼ら、彼女らがある日を境に初めて出会う”仲間たち”によってもたらされる大きな変革についてご紹介したいと思います。

仲間との出会い

日本国内で数少ない人格障害の回復支援を専門としている当施設へ、県内外を問わずたくさんの方が相談や見学に訪れます。

そして、そのまま施設への入所(宿泊)利用をご決断される方も一定数いらっしゃいます。

それぞれ経緯や症状、年齢層や出身地までもが異なる方たちが一同に介して共同生活を送っているので、全員が意気投合することはなかなか難しいものですが、皆さんどこか同じ悩みや苦しみを抱えている部分も確かにあるのです。

実際に、ふとしたきっかけから利用者同士で話し合う機会があったりするとお互いに驚くほどの共感が生まれ、何時間も話し込んでしまったなんてことは日常茶飯事です。

実は、こうした現象は施設内で偶然に起こっているわけではなく、施設側が利用者同士の交流を促して意図的に仕組んでいるところがあります。

今まで話をまともに聞いてもらえなかったり、意図を汲んでもらえなかった苦い経験を覆すために、施設内では話の通じるスタッフやたくさんの仲間たちに囲まれるよう取り計らっているのです。

そもそも、なぜ人格障害の方は周囲になかなか共感してもらうことが難しいのかと言うと、人格障害には偏った考え方や強いこだわり、ものの捉え方などが大きく異なるといった特性があることが理由として挙げられます。

しかし、これは人格障害の方とそうでない方との間に起こるギャップ(格差)のようなものであり、同じ境遇、同じ症状、同じ障害といったいずれかの条件が一致していれば、あとはきっかけさえあれば理解者となり得るのです。

もちろん、心理士を筆頭に当施設のスタッフたちのように人格障害についての知識が一定以上あることで、当事者たちの気持ちに寄り添ってあげたり、理解を示してあげることもできるようになります。

”誰にも理解されない”という苦しみは、人格障害でなくともつらいものです。

人格障害のケアに不可欠な穏やかな日常生活を送っていただくためにも、そうしたつらい思いを少しでも和らげてくれる”心の許せる仲間”の存在を、当施設は何よりも大切にしています。

最初からできなくてもいい

「みんな仲間だから気軽に話しかけてね。」

と、スタッフがいくら声をかけてみも、入所されたばかりの方はまだ心の壁が厚く、周囲と積極的に関わりを持とうとはしません。

これまでの人生経験から、「他人は信用ならない」「他人は敵だ」「誰も私のことを理解なんてできない」といった偏見にも似た考えに縛られてしまっているためです。

周囲に理解しようと歩み寄ってくれる仲間たちがいてくれても、当の本人が心を閉ざしていたのでは話し合いも共感も起こりようがありません。

しかし、ここで焦ったり急かしたり無理強いしていてはためにならないので、自発的にコミュニケーションを取ってくれるようになるまで我慢比べのような期間が続きます。

ちなみに、当施設では生活のための個室を貸し与えられていますが、食事や洗濯などはどうしても共同スペースを利用する必要があるため、そのうち部屋にこもってばかりもいられなくなってきます。

同じ施設内でずっと誰とも関わらずに生活を続けるには、精神的にもそれなりの”しんどさ”があり、独りでいることに限界を感じるようになってくるためです。

そうして、時が経てば自然と一言、二言、挨拶を交わしたり、誰かに用事を頼んだりするようになっていくので心配はいりません。

何気ない関わりが少しずつ増えてくるようになると、そこから日常会話ができるようになってくるまでそう時間はかからないでしょう。

数ヶ月も経つ頃には、「誰とも口を聞かなかったあの人が普通に仲間やスタッフたちと話をしている。」なんて姿は珍しくありません。

会話する機会が増えてくると、いつの間にか本人もスラスラと言葉が出てくるようになり、今まで誰にも話してこなかったような自分の気持ちについても徐々に打ち明けてくれるようになっていきます。

この一連のやり取りこそ、社会生活には欠かせない”人と信頼関係を築く”ためのコミュニケーションが行えるまでに成長された証です。

余談ですが、こうした変化は私どもスタッフから見てもとても嬉しいもので、親御さんに経過報告をする楽しみの一つでもあります。

焦らず、ゆっくりと

スタッフのような理解者や同じ悩みを持った仲間たちとの信頼関係の構築によって、今まで人格障害によって見失っていた”その人らしさ”を徐々に取り戻していかれることはご理解いただけたかと思います。

しかし、どうしてもこのような変化や成長には相応の時間がかかってしまうことも事実です。

そのため、ご家族の事情の変化や金銭的な問題などによって、当施設の支援を継続して受けていくこと自体が難しくなってしまい、中には回復を待たずして中断を余儀なくされてしまうこともあり、大変に心苦しく思います。

当施設はそうした中断を残念に思う一方で、できるだけご家族の要望や事情に臨機応変に対応していけるよう、様々なプランや支援の形態をご用意し、直近では「リモート心理相談」のような新しいサービスも開始いたしました。

たとえ当施設の支援から離れてしまったとしても、また折を見てご相談する機会をいただけたり、支援再開の要望があった際には快く請け負っております。

人格障害の回復や寛解(診断基準を満たさなくなるまで緩和された状態)までに要する時間は、症状や程度に応じてその人の貴重な人生の中から、どうしても数ヶ月~数年という長い期間を見積もっていただく必要があります。

ご家族が目標とする地点まで支援を継続していくためには、本人やご家族はもちろん、私ども支える側の人間にも相応の忍耐力が求められます。

特に、心に焦りや不安が生じてしまったりすると、途中で諦めたり投げ出してしまいたくなるので注意が必要です。

そのような時は、やはり頼りになる良き相談相手や仲間といった存在が支えになってくれることは言うまでもありません。

今も人格障害の克服に向けて奮闘されているであろう皆さんも、これから出会うかもしれない仲間たちとの出会いを快く受け入れてあげてください。

当施設はこれからも、そうした仲間の大切さを皆さんに訴え続けて参ります。