「親のせいで人生を台無しにされたのだから、親が責任を取るべきだ!」

成人を迎えてからも、このように声高に親を責め立てる子供たちが後を絶ちません。

親も親で、「子供がこうなってしまった責任が自分たちにあるかもしれない…」といった罪悪感のような気持ちからか、ついつい子供の身の回りの世話焼き、謝罪、金銭の支払いなどを延々と続けてしまうことがあります。

そこで今回は、同じような悩みを抱えた全国の親御さんたちに向けて「子供が親に求める責任」をテーマに、その責任を全て親が背負わなくてもよい理由を大きく3つにわけてご紹介したいと思います。

皆さんが抱えた苦しい家族の現状を打開するにあたって、この記事からそのヒントを読み取っていただければ幸いです。

①法的責任

基本的に未成年の子供が犯した不始末(事故、トラブルなど)の責任は、保護者である親の監督責任として負うことになっています。

しかし、子供が成人した後は親が法的に責任を負う必要はなくなります(社会的または道義的責任は除く)。

つまり、”法的”には成人した子供は自分で責任を負う能力が身についているものとみなされ、親が負う必要がないとも言い換えられます。

しかし、今回のテーマに挙げたような「子供が親に求める責任」の中には、法律以外の”違った意味のもの”が含まれていることにお気づきでしょうか?

②子供が問う責任

ほとんどの場合において、子供が求めている”責任”とは「現状の自分が置かれている状況」に対する責任のことを指していると考えられます。

子供が親に向かって訴える「責任をとれ!」という言葉には、実のところ法的な意味合いなどは含まれていません。

例えば、学校や仕事に行かず引きこもりになってしまった子供が次のような言葉を多用します。

「自分(子供)が引きこもりになってしまった原因は、全部親が悪い!」

子供というものは家庭環境、つまり親の育て方(接し方)の影響を多大に受けて人格形成するわけですから、この言い分はある意味”半分正解”といったところでしょう。

もう半分は、「社会(学校や職場の人間関係)」や「自らが持って生まれた特性」や「感受性」、「障害の疑い」もあるため、全てが親の影響ということは絶対にありません。

しかし、このような事実はあくまで理屈に過ぎず、「全て親の責任」と思い込んでしまっているような子供に対してこのことを説いたところで、理解されることはまずないでしょう。

思いつめた親がこの事実を知ることで「子供がこうなってしまった責任は、全て自分のせいというわけではなかった」と考えを改め、少しでも気持ちが軽くなっていただければ幸いです。

③親が持つべき責任

親が子供に対して持つべき責任とは、「子供を自立した大人として社会へ送り出してあげる」ことにこそあると言えるでしょう。

もちろん、多くの親御さんたちはこうした考えを持ち、子供に「社会のルール」や「道徳」について一生懸命教えようとします。

しかし、これだけではまだ子供が大人として社会でやっていくためには足りないものがあります。

先述した通り、子供たちは”親の影響”を大きく受けて育ちます。

幼少の頃より、自分の親が「どういった大人で」「どういった夫婦で」「家族とどういった関わり方をする人なのか」といったことをよく観察していて、それを参考にしています。

つまり、親は特別なことをせずとも普通に生活しているだけで常に子供の”お手本”となっているのです。

結論から言うならば、子供を自立した立派な大人にしてあげるためには、自分(親)たちの生き様にこそ真の意味での「責任」を持つことが大切なのです。

例えそれが不器用でも、良いお手本でなくとも、子供から見て”幸せそう”で、”楽しそう”で、”愛情を持って接してくれる姿”を見せることができたなら、子供はまっすぐ良い大人に成長していくでしょう。

逆に、普段から難しい顔ばかりしていたり、口喧嘩している姿を子供が見たら、子供はきっと「こんな大人なら自分はなりたくない」と思ってしまうかもしれません。

決してそのような思いをさせないように、親は自らの人生にこそ責任を持って生きるべきではないでしょうか。

最後に…責任からの解放

最後に、「すでに子供が成人し、現在進行形でひきこもりやニート、家庭内暴力などの問題行動を起こしてしまっている場合」は、親がどこまで責任をとり続ければいいかについて考えてみます。

この場合の対処方法は非常にデリケートで、親が全ての責任をとろうとすると逆に症状が悪化してしまう可能性が高いです。

そのため、子供がそうなるに至った原因を踏まえたうえで、専門家と一緒に対処していくことが求められます。

復習になりますが、子供が親を責めるようになる理由は以下の4つの要因のいずれかまたは複数が、複雑に絡み合って影響していることが考えられます。

親を責めたり、責任を問うようになった子供に対し、その全てを親が肩代わりするということは、子供が自分で責任を取る機会を永遠に奪う行為につながります。

そんな時は、社会福祉サービス医療機関、または私どものような専門の支援機関などとつながり、協力して問題に取り組むことで子供の回復が見込めます。

まず手始めに社会福祉相談窓口の利用、精神科病院などへの通院、心理カウンセリングなどを検討してみてはいかがでしょう。

それらが難しいほどに症状が深刻である場合は、入院や入所といった手段を考える必要があるのかもしれません。

症状の重い子供に親がしてあげられることは、支援とのつながりを作ったり、それを維持するための架け橋となること。そして、距離を置いて見守ってあげることです

実際に、私どもの施設でお預りしているお子さんたちの多くは、それまで親御さんだけで全ての面倒をみておられました。

その先にある親子共倒れという最悪の結果になる前に、私どものような支援機関とつながることができたことは、家族にとって幸運なことのように思われます。

そうして支援とつながり、親御さん(ご家族)たちが利用開始とともに安堵の息をもらすほどに緊張の糸が切れた様子を見て、それを私どもは良い傾向であると捉え、次のような言葉をおかけしています。

「苦しいご決断だったと思いますが、よく決心なさいましたね。」

子供のためにできることは、何も全ての責任を取ったり、全ての面倒をみることだけではありません。

自分の手に負えない部分は人を頼り、できる範囲のことをしてあげたならそれだけで十分なのです。